2023-10-2 10:26 /
这几天一直都在搜集有关末期少女病的信息 这本03年公爵为了宣传少女病发售发给粉丝的天价小册子竟然偶然有幸在一位个人博客网站里找到了 真是一大发现 里面有详细的游戏文本内容 应该可以一窥少女病的些许轮廓与世界观了吧(激动) 这里依然抛砖引玉(没人的话我有空抽时间细读然后翻译一下)(底部龟速更新)
原blog(建议阅读):https://koinucomputerscans.wordpress.com/2013/03/03/the-original-shoujobyou-and-the-hunt-for-the-artist/(作者说没有完整的扫图 就比如这张图左边的那张CG并没有清晰的扫图 但这是他能找到最完整的了 他还试着去寻找担任少女病03年版本的原画同样也是101原画的貴森裕友的去向 可惜无果)
以下是文字部分
<ATTENTION!>
このページは、公爵(デューク)様が今冬発売予定として製作している18禁ゲーム「末期、少女病~Lyrical pop World's end~」宣伝用として配布されている小冊子の内容を電子化したものです。
著作権とか公爵様のものなので無断転載はダメダメです。
私自身、正式な許可を得て上げてるものでもないんで怒られたら引っ込めますし。
それからこの先のページには残酷シーンや、暴力描写、性的描写なども含まれてるので、そーゆーのが駄目な人は読んじゃいけません。
んで、真似たら犯罪者になるような真似は真似んなや?
以上、お約束を守れる人だけ光と共に歩め!(それ前作)
黙示録のカレンダー
制暦2001年2月3日。
今崎浩二(28歳・無職)は、インターネットから以下の知識を手に入れた。
月経周期は、以下のように繰り返される。
排卵の時期になると、脳の視床下部から性腺刺激ホルモンが分泌される。このホルモンは、脳の下垂体に卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌を指令する。
まず、卵胞刺激ホルモンが卵巣へと分泌される。これを受けていくつかの卵胞が肥大し、その際にエストロゲンが分泌される。エストロゲンは血液を介して子宮に到達し、子宮内膜を成長させる。
血液中のエストロゲンの増大によって、脳の視床下部は、「卵胞の十分な成熟」と「子宮内膜での妊娠準備の進行」を判断。続いて脳の下垂体に、黄体化ホルモンの分泌を指令する。
黄体化ホルモンが多くなると、脳の体温の中枢が刺激されて体温が上昇する。黄体化ホルモンは卵巣へ分泌され、肥大した卵胞を破裂させる。これが「排卵」である。
排卵後の卵巣では、黄体化ホルモンが黄体を形成する。この黄体から、プロゲステロンが分泌される。プロゲステロンは子宮内膜を柔らかく変化させ、妊娠の準備を進める。
妊娠しなかった場合は、排卵からおよそ二週間程で子宮内膜が剥離する。これが「生理」である。 月経周期は、一般的には28~35日周期になっている。そして周期の長短に関わりなく、次回月経予定日の12~16日前に排卵が起こる。
今崎浩二はそれから一年にわたって、Y家のごみ袋を集積所から回収し続けた。そしてごみ袋のなかから、使用済みの生理用ナプキンだけを丁寧に選り分けた。
回収されたナプキンは彼の自室の壁に貼リ付けられることとなった。添作作業にはセロハンテープが使用された。
やがて壁は戦利品たる赤黒いナプキンで覆い尽くされ、結果的に、そこにはY家の姉妹の月経周期が浮かび上がることとなった。今崎浩二はそれを「黙示録のカレンダー」と呼んだ。
失敗は許されなかった。
機会は一度しかなく、それは世界を救う唯一の方法だった。人類が昇華へど至る最後の道であった。今崎浩二は孤独に耐えた。
彼はもともと孤独な男であった。五年以上、彼の部屋だけが彼の世界だった。閉じられた世界のなかで、彼は、自分にぴったりと寄リ添う孤独という名の呪いを諦観していた。孤独であること。それは生まれたときから魂に刻まれているしるしのようなものなのだ。骨に巣食う病気や肌の色と同じで、そのありさまをを選ぶことはできない。
もちろん表層を塗り変えることはできる。だが、そんなものは雨の日のへアスプレーみたいに剥げ落ちる。なぜならそれが本質というものだからだ。静かに向かい合って生きていくしかない種類のものごとが世界には存在するのだ。
しかし、使命感は、彼の孤独を孤独として浮かび上がらせることとなった。彼は孤独を恐れるようになった。そんなとき──「おれは戦車だ」──今崎浩二は、嫌な匂いがむっと鼻をつく部屋でひとりつぶやいた。おれは戦車だ。
キュラキュラキュラ! それ以上はなにも聞くな!
今崎浩二はこのようにして決行日を導き出した。
彼はY家に押し入リ、Y家の三姉弟──長女、次女、長男──を全員縛リ上げた。
彼はまず長女を包丁で脅し、弟のぺニスを咥えさせた。長女は泣きながらそれを拒絶したが、次女の肩口を包丁で一突きすると(そして次女が絶叫を上げると)、自ら進んで「します」と言った。
長男はすぐに勃起した。
それどころか、姉の口腔に精液を放った。
今崎浩二は烈火のごとく怒った。
長男の腹を蹴飛ばして悶絶させ、それから長女に命じて、次女の手のひらに精液を一滴残らず吐き出させた。そしてこう命じた。
「姉ちゃんの子営にそれを全部流し込むんだ」
きょとんとする次女の肩の刺し傷に、今崎浩二は親指をねじ込んだ。
「早くしろ、戦車が壊れてしまう!」
その作業は、スポイトを使って行われた。
次女は涙を流しながら兄の精液をスポイトで吸い取り、姉の膣口へと流し込んだ。姉妹がすすり泣く声と、じゅるじゅるという淫靡な音が暗いリビングに響いていた。今崎浩二はそんな種付け作業を見ながら自慰をして、次女の髪の毛に大量の精液を放った。呆然とする次女の髪をぐしゃぐしゃとかき回しながら、今崎浩二は宣言した。
「よし、次はお前の種付けだ」
長女が泣きながら懇願した。──私ならどうなってもかまいません。妹だけは許してください!
今崎浩二は交換条件を出した。
「一時間以内に、弟が勃起しないくらい射精させたら妹は許してやる」
弟の上に跨って腰を上下させながら、長女はうわごとのように「ごめんね、ごめんね」と繰リ返していた。あっという間に2発の精液が長女の子宮に流し込まれた。繋がりあった姉弟の性器が、ぶじゅぶじゅと異様な音を立てた。
精液と愛液が混じりあった液休が半透明のあぶくを作っていた。あぶくは姉弟の性器が上下するたびにぱちんと弾けて、糸を引き、またあぶくとなった。
40分過ぎ、長女は勢いを失った弟の性器を自分の性器から引き抜き、指と胸と舌と唇を使って再び完全に勃起させた。「ごめんね、ごめんね……」。長女は弟の性器を手で固定して、自分の性器に押し当て、腰を下ろした。ぶぶっ、と空気が漏れる音がして、姉弟は再びひとつになった。ふたりは命令されるがままに唇を合わせた。桃色の舌が絡み合い、唾液がふたりの顎を汚した。唇を離すと、白い唾液がだらりと太く姉弟をつないだ。ねっとりとしたそれはしぶとく重力に逆らい、最終的に、顔を背けた長女のほほから下あごにかけてべったりとこびりついた。ふたりとも汗まみれで、全身が蛍光灯にてらてらと照り輝いていた。次女は、兄と姉との交尾を見ながら自慰をすることを命じられた。手が止まったり、目をそらしたりした瞬間、今崎の指が傷口をえぐった。
結局、一時間の間に長男は5回の絶頂を迎えた。
姉の性器から引さ抜かれたぺ二スは、くったりと勢いを失っていた。
「ようし、立つかどうかテストだ」
今崎浩二は次女を後ろから抱え上げ、兄に向かって両足を開かせた。次女のパンティはじっとりと湿っていて、薄布のうえには性器の形が浮かび上がっていた。
「おい、勃起させれば妹とやらせてやるぞ?」
今崎浩二は次女の性器をパンティ越しに撫でさすりながら、そこの手触りを丁寧に説明した。次女はすでに流す涙も無く、呆然とされるがままになっていた。長女もまた、放心したかのように天井を見上げて動かなかった。
パンティを引き抜くと、クロッチと性器の間を白い液が糸でつないだ。熱気にしっとリと湿った陰毛を撫でさすりながら、今崎浩二は仕上げに入った。
「いい機会だ。妹の×××で女の勉強といくか」
今崎浩二は長男の襟首をつかみ、広げた妹の股の間に押し村けた。そして次女の性器を指で押し広げ、性器の解剖学的な名称と俗称を説明してみせた。長男の性器は完全に勃起してぃた。
「そうか、そんなに妹としたいか!」
今崎浩二は笑った。
今崎浩二は長女に、妹の処女喪失の手伝いをする権利を与えた。
「痛くて死んじまわないように、優しくやりかたを教えてやれ」
長女はもう逆らわなかった。
仰向けになった長男のぺ二スをまたぐ形で、次女は立てひざをついた。長女が弟のぺ二スを握り、妹の膣にあてがった。「いい?2、3回チョンチョンって突いてから、ちょっと強めに押すのよ。それを何回も根気よく繰り返すの」とアドバイスした。
次女は、姉のアドバイスのとおりに兄の性器を受け入れた。
長女がじっと見守るなか、次女の腰の動きが少しずつ速くなっていった。
やがて長女は両手で妹の肩を支え、「1・2の3」と言いながら全休重をかけた。次女が痛みに悲鳴を上げ、身をこわばらせて凍りつぃた。長男のぺ二スが根元まで、妹の胎内に埋まっていた。
兄の性器で串刺しにされたまま、次女は震えて動かなかった。息だけが荒く、涙が桜色に上気した頬を伝い落らた。
何かを言おうと唇が開いたが、言葉は出てこなかった。水のような涎がつう、っと糸を引いてこぼれた。涎は次女の胸のふくらみに落ち、なめくじのようにゆっくリと糸を引いて兄の胸へと滴った。
かくして今崎浩二は、Y家の姉妹を血族の精液で妊娠させたのだった。
これによって、Y家の素晴らしい血統は守られることとなった。現代社会は、血が繋がった姉弟、兄妹が子をなすことをタブーとしている。しかし、そんなものはまったくのナンセンスだ。カルマを払う聖なるカを汚れた血で汚してはならない。それは人類の損失に他ならない。人類の財産は──未来は──戦車である俺の手によって守られたのだ!
今崎浩二は笑いながら包丁を自分の腹に突き立てた。
「おれは戦車だ!」
25回刺すまで、今崎浩二は死ななかった。
キュラキュラキュラ。
しかし、今崎浩二の行為はまったくの無意味だったのである。
Y家の三人はみな養子で、血が繋がっていなかったのだ。
すなわちこの寓話の教訓はこういうことだ。
人生とはオチの無い冗談でしかない。
──そういうものだ。
世界の果てを車はゆく
カーラジオの男が言う。
「今年の冬の流行色はあおいろです」
その話題は僕の心を奇妙な方向にスライドさせる。座りの悪いどこかへと連れてゆく。
ガラス窓の向こうは摂氏34度の世界で、冬の到来はアコーディオン状に折り重った熱気のはるか彼方にある。夏。
完壁な夏がそこにはある。象徴としての夏でも、形而上の夏でも、詩的比喩としての夏でもない。リアルでシンプルな夏。アクセルを踏み込むと時速90キロで後方に流れ去っていく夏。
それでもカーラジオの男は予言する。「今年の冬の流行色はあおいろです」。
やれやれ。
僕は思う。
僕たちを取り囲む多くのものごとがそうであるように(あるいは僕たちそのものがそうであるように)、来たるべき冬の流行色もまた定められているのだ。
「今年の冬の流行色はあおいろです」。
それは正確には予言ではなく、予定なのだ。
ハンドルを指で叩きながら──とん・とん・とん──個人的営為と絶対的運命の相克について考える。そのシビアなしのぎあいのなかで、僕がふさわしい自我を得ることができる可能性について考える。もちろん少しのあいだだ。
煙草一木分の時間。それ以上考えたところで辿り着く場所は決まっている。なぜならすべては予定されているのだ。
冬の流行色みたいに定められている。
オーケイ。
諸君、ロックしようじゃないか。
カーラジオのチャンネルをひねる。
アナウンサーの声が雑音に溶け、かわりにギターの音色が夜の霧みたいにスピーカーからこぼれ出す。大昔のプロテスタントソング。ロックと呼ぶにはあまりにフォークじみたしろもの。
まあいいさ、と僕は思う。
まあいいさ。自我についての沈思黙考に比べれば、ずいぶんと健康的でドライブ的だ。イエス。すべては比較の問題だ。どちらがよりマシか。より長い期間我慢できるか。吐瀉物と排泄物のどちらがより詩的かというような意味合いにおいて、それは無意味で限定された選択なのだ。無意味で/限定された/選択。とん/とん/とん。
ライリー・Rをころしたのはだれだ?
なぜ、どんなわけがある?
十五人の奇術師が おれにいう
「いいかい ヤンク・ディラン
人生は 坂道で起こる事故みたいなもの
制御できない悲劇の連続のなか
われわれがなせることは あまりに少ない
だとしたら なあ ヤング・ディラン
ライリー・Rは ロストハイウエイにいくしかなかったのさ」
リアルな僕の世界についてのインフォメーション。
F県I市。東京から車で三時間のポイント。 僕たち(つまりは僕と、僕の車)は時速90キロでハイウエイを移動してぃる。まっすぐなハイウエイ。カール・ルイスが全カでラインカーを走らせたみたいにまっすぐ。見渡す限リ他の車の姿はない。僕たち専用の失われたハイウエイだ。
ハイウエイの両協にはホ口コースト的な荒野が広がっている。すべてが白っぽい砂利に覆われてぃる。田畑どころか、木も草もない。信号機も、民家も、コンビ二も、ばかげた交通標語の看板もない。──いいかいヤング・ディラン。交通標語の看板さえないのだぜ? 『ギュッと締め/心とからだの/シートべルト』。極めて完壁に近いかたちの無意味。そしてここには、そんな無意味さえありはしない。100パーセントの荒野。
30分はど前、放棄された原子力発電施設の脇を走り抜けた。
閉鎖されて久しいのであろう。かつてそれが抱えていたはずのべらぼうなエネルギーは、洗いざらしのジーンズみたいに漂白されてしまっていた。それは僕に巨大な動物の死骸を思わせた。しんどそうなため息をひとつついて、次の瞬間あっけなく死んでしまった生き物。そしてそれは死骸的であると同時に墓標的でもあった。
陰鬱な光景だった。世界に動きはなく、のぺっりとした均一性の上に夏だけが満ちていた。時間さえも死んでしまったように思えた。なにもかもが身を固めて、息をひそめていた。空は灰色で暗く、黒い雲がものすごい勢いで此方から彼方へと流れていった。
すてきな すてきな ロストハイウエイ
へイ いかれたガチョウにしがみつけ
すてきな すてきな ロストハイウエイ
へイ いかしたハンドルを握るんだ
──世界の果て。
僕はそんな言葉を思う。舌に乗せ、声に変えてみる。
「世界の果て」
悪くない。
それは時速90キロで夏をゆく僕の車のなかに、素敵に響く。
リリカルだ
詩的にリリカルで、駄菓子みたいにポップだ。
LYRICALでPOPなWORLD'S END──。
「世界の果て」
けれども二度目に口に出してしまうと、それはもうちっともリリカルでもポップでもなかった。魔法は失われてしまっていた。ただ白々しく、虚しいだけだった。
なぜだろう?
もらろん──僕にはわかっている──世界の果てなど本当はどこにもないからだ。
辿り着いた瞬間、世界の果てはリアルなフロンティアに化ける。僕たちはそこで生きていくしかない。その時点ですでにそこは『ここではないどこか』──世界の果てではなくなってしまっているのだ。僕たちが辿り着くたびに、世界の果てからは世界の果て性とも呼ぶべき神秘が失われる。一歩前に出ればその一歩先に。伸ばした手のすぐ先にありながらも決してつかむことができない。
あるいは、僕たち自身が定点のない世界の果てなのかもしれない。
僕たちが前に進む。世界の果てもまた前に進む。亀に追いつけないアキレスみたいに、僕たらは世界の果てには辿り着けない。それはすなわら、僕たらは僕たち自身をつかむことはできないし、僕たち自身から逃げることもできないということなのだろう。
カーリングみたいにシビアで、トライアスロンみたいにハード。
つまりは現実的ということだ。
やれやれ。
カルマ落とし
「御茶ノ水という町が好きだったんです。
少し足を伸ばすと秋葉原だとか、後楽園遊園地だとかで賑やかなんですけれど、私は御茶ノ水の静かさが好きで。
とりわけ特徴がある町というわけはないんですけれど、メイン通りから少し中に人ったあたリ──ニコライ堂とか。あのへんの空気が好きなんです。洗練された田舎というか、やぼったい都会というか。わりあい緑が残っているんですよ。ああ、そんなこといわなくてもご存知ですよね、東京の人だから。
町って、どこであれ、そこにしかない空気感みたいなものがあるものですよね。その波長が合うか、今わないか。
御茶ノ水は、合った。そういえば、友達と、『町の色』っていうのを話したことがあるんです。町には固有のイメージカラーがあるんじゃないかって。池袋は青。秋葉原は赤──なんでだろう。赤いネオンが多いから? あはは……。たいした統一見解は得られなかったんですけれど、「御茶ノ水は緑」というのだけはピッタリあって。そんなこと、覚えてます。
あのあたり──JR水道橋駅に近づくと特に──坂が多くて、自転車はあまり役に立たないんです。だから原付自動車の免許を取りました。大学一年の夏休みです。行動範囲が広がりました。これさえあればどこにだっていける──。わけもなくあたりを走り回ったものです。暑くなったら本屋に入るんです。本を読みながら、汗が引くのを待つ……。
本は、そんなに読むほうじゃないんです。べストセラーとか、情報雑誌とか。そういうのをときどき読むだけ。
すみません。
東京の夜って、お墓みたいじゃないですか。
昼間はあんなに賑やかで人がいっぱいなのに、夜になると誰もいない。そういうのがお祭りの後みたいでいやだったんです。哀しい気持ちになるから。新宿で飲み会があって終電を逃したとき、歩いて家に帰ったんですけれど──哀しかった。すごく哀しくて、涙が出そうになりました。核戦争のあと、世界で一人だけ生き残っちゃったみたいに哀しかった。コンビニは開いてます。でも、コンビ二の蛍光灯もすごく白々しく見えた。切り離された感じ。ひとりなんだって、思った。
でも、御茶ノ水の夜はそうじゃないんです。
もちろん人はいないし、静かです。でも、いやな静けさではないんです。せいせいとした、凛とした──昼間のおまけじゃないんだって。そんな夜。優しい夜。
家賃は安くはなかったですね。でも、親の仕送りがあったから。半分の6万円はそれで賄っていました。残リはアルバイト代で。友達は沿線に引っ越せって、しきリにアドバイスしてくれたんですけどそれでも御茶ノ水が好きで。
あの日もアルバイトにいく途中だったんです。新宿の××って喫茶店。サラリーマンのひとが打ち合わせで使う喫茶店で──笑えるでしょう? みんな笑うんですよ、じじくさいって。
中央線を使うんですけど、よく遅れるんです。ほら、人身事故とか、いろいろ。その日もなにがあったのかしらないけど、いったん、代々木の手前で止まっちゃったんです。10分くらい止まっていたかな? ……いえ、昼間だから混んでいなくて、そういう意味でつらいということは。ただ、バイトに間に合わないって、焦っていました。時間は守るはうなんです。一度も遅刻したことないです。いやなんです、そういうの。すごく。別にとくべつ几帳面というわけじゃないんですけど、時間は、うん。だから焦ってました。
そしたら、胸の部分にビシャーッって。
最初、野球のボールでもぶつけられたと思ったんです。液体というよりも、固体がぶつかった感じで。でもじっとりとしていたから、ああ、これはぺンキかなにかだって。
買ったばかりの白いTシャツだったし──こいつはなんてことするんだ、って、すごく腹が立ったんです。だから、前に座ってる子をジロッってにらんだら、その子も私を見てた。目と目が、合ったんです。高校生くらいの男の子で。とたんに、怖くなった。殴られる、って思いました。どうしてかわからないけど、殴られるって。
でも、なんかその子、真っ赤なんです。首の下からズボンまで、真っ赤で。のどからぴゅー、ぴゅー、って噴き上がってるんです。スプリンクラーみたいに……ああ、血だ、って──。
吊り革をつかんだ手がこおりついて、逃げられなかったんです。
だから助けて、って叫びました。手が取れないんです、助けてください、って。
まわりのひとたらは、私の声で我に返ったみたいでした。悲鳴が聞こえて、隣の車両に逃げていく人とか、げえげえ吐く音とか。私は凍りついたまま、金縛りのまま。目をつぶって助けて助けて助けてって。
そうしたら、ずしっ、と抱きつかれたんです。
心臓が上まるかと思いました。
反射的に目をあけました。
血まみれのその子が席から立ち上がって、私に抱きついていました。
耳元で声がしました。
「ぺちゃぺちゃぺちゃっ」
って聞こえました。
だから
「えっ?」って。
そしたら大声で──。
「ワスレルナ!」
大声で言ったんです──」
× × ×
依頼人はそこまで言うと、深い沈黙の中に沈みこんだ。
彼女の視線は、テーブルの上のマグカップにじっと固定されていた。
マグカップのなかのコーヒーはすっかり冷え切って、表面にしなびた膜ができていた。東京を引きあげるときに持ってきたのであろう、テーブルやソファーは品がよく、垢抜けていた。けれどもオレンジやイエローのポップな家具はこの和室にはひどくなじんでおらず、どこか現実味を欠いていた。本来ここにあるべきではないものたち。ある種の哀しみすら湛えていた。クーラーが効きすぎていた。まるで小酒落た冷凍庫にいるみたいだった。
話を終えた彼女は、ひどく老け込んで見えた。 僕を出迎えて、コーヒーを入れて、ソファーに座ったときから二時間しか経っていないのに、もう200歳も歳をとってしまったみたいだった。彼女はマグカップを見つめていた。けれども本当はマグカップを通り越えたどこでもない空間をじっと見つめているのだった。彼女の目には何も映っていなかった。暗い井戸みたいなくらやみが、ぽっかりとあるだけだった。
本当は魅力的な女性なのだろう、と僕は思った。
御茶ノ水の坂ですれ違った人たちに、春の木漏れ日みたいな微笑みを浮かべさせる女性。けれども今の彼女からは、そうした種類の美徳がことごとく失われてしまっていた。ひどいことに、彼女は人間にさえ見えなかった。かわいそうなミイラみたいに乾いて、消耗していた。
そしてそれこそが、人狼輪廻教会が彼女にかけた呪いなのだ。
人狼輪廻教会。
チープな名前だ。彼らは拠るべき教会を持たなかったし、輪廻なんて信じていなかった。もちろん人狼でさえなかった。
その名前のこけおどし加減が、本質的な彼らのチープさを物語っていた。とどめに彼らはインターネット上にのみ存在する少年少女のカルトだった。電脳カルト人狼輪廻教会。勘弁してくれ。そして人狼たらは制暦2002年の夏──7月1日正午ちょうどに様々な場所で一斉に喉を掻き切り、自らのチープ性を完壁にしたのだった。
『互いの顔さえ知らない少年少女たちが──』
『デートの待ち合わせでもするかのように示し合わせて同時刻に命を絶つ』
『携帯電話によるうわべだけのコミュ二ケーションに不安を抱き──』
『ウソが横行する社会に共感を覚えられず──』
『電脳上の擬似コミュ二ティに居場所を見つけた少年少女──』
『そしてそれを永遠にするためには死を選ぶしかなかったのだ──』
人狼たらはウルトラチープな殉教者だった。ありがちな現代社会が生み出した、ありがちなピエロだった。多くの人間は驚くと同時に、鼻白んだ。「やれやれ」と思った。「こいつらはどうしてこんなにも馬鹿なんだ?」
彼らは間抜けだった。しかし、自分たらの意思表明がすぐに忘れ去られることぐらいは理解していた。その尊さに見合わず、自分たらの行為がワイドショーのドブ川に流れ消える数々のゴシップのひどつに成り下がることを知っていた。
だから人狼たらは個人に呪いをかけたのだった。
社会に名を刻むことができないのなら、個人にそれを刻んでやろう。
見知らぬ他人の前でいきなり喉を切った。
相手の目を覗き込んで言った。
「忘れるな」と。
彼らは、彼女たちに、革命への参加を強制した。傍観者として通り過ぎ、忘れることを許さなかった。共犯者に仕立てあげた。彼らは死んだ。しかし、ゼロにはならなかった。彼らがなにを考えていたのかは知らないし、知りたくもない。しかし、その想念は確かに残ったのだ。少なくとも、僕の目の前で虚空を眺めている(あるいは彼女自体がすでに虚空そのものなのかもしれない)依頼人の心には、深い傷として残った。
呪いとはすなわち、そういうものなのだ。
僕はアタッシュケースを膝の上に載せ、ロックをはずし、小瓶を三つ取り出し、机の上に一直線に並べて置いた。
薄暗くなった部屋の中で。小瓶は宝石のように輝いていた。
依頼人の顔に複雑な色が浮かんでいる。
この人はいかれているんじゃないだろうか?
そして私もまたいかれてしまったのではないだろうか?
「安心してください」
と僕は言った。
「月蝕カルマ水があなたの穢れを落とすでしょう。あなたが求め、そしてあなたを救う霊水です。あなたの穢れ──カルマは相当のものです。けれども中和することができます。見たところ、三瓶もあれば足りるはずです。これだけ置いていきます。足りなかったらまた私を呼んで、お話を聞かせてください」
「あの──」
「使い方はこの紙に書いてあります。危険なものではありませんが使い方を間違えると効果がありません。しっかり目を通して、それから使ってください」
「あの──」
「ひと瓶、三万円です」
とびきりの笑顔。
鏡で何回も練習したとびきりの笑顔。
安心してください。
なにも心配は要りません。
私が、あなたを、救済してあげましょう。
悪いのはあなたではないのです。穢れなのです。カルマなのです。
さあ、穢れを落としましょう。
カルマを落としましょう。
大丈夫です。
私に任せればなにもかもうまくいくようになります。
微笑みながら僕は思う。
姉さんも、こんなふうに笑ったのだろうか──?
姉さん。
百円ショップで買ったビ二ールロープを三重に首に回して、梁からぶらさがった姉さん。
ああ、姉さんもこんなふうに笑ったのだろうか……?
カルマ落とし
月蝕カルマ水を売り始めたのは姉さんだった。
姉さんは大きな団地の右端から左端まで、一軒一軒の呼び鈴を押してまわった。運良くドアを開けてもらえたときには、「水はいりませんか?」と、とびきりの笑顔できりだすのだった。
「──いえいえ、浄水機の押し売りなんかじゃないんですよ。わるいものを落とすとくべつな水を売っているんです。洗剤みたいにおちるんです。TVの通信販売でドイツのカーワックスの実演をしているでしょ? あれくらいおちるんですよ。もう、ごそーっ、て。大きな声では言えませんけど、月蝕カルマ水っていうんです。カルマってご存知ですか? 詳しくお話ししたいのですけれど……あア、暑いですね。まったく、もう、ねえ。暑くてたまらない。ねえ、よろしかったらおうちにあげていただけませんか?」
水がたくさん売れた日には、姉さんは、僕と理有をファミリーレストランに連れていってくれた。
彼女は店員に対して女王のようにふるまった。みんなが僕たらを怪訝そうに見た。僕は恥ずかしくてしかたがなかった。肘でつついて姉さんやめなよ、とたしなめたが、姉さんは決してやめようはせず、女王のように僕を叱るのだった。
「このひとのためじゃなぃ! ねえ、わかるでしょう、あなた? あなたよ、あなたに言ってるの。あなたもいつまでも女給みたぃな仕事やってる場合じゃないのよ。もっと世の中の役に立つ仕事をしなくちゃあ、なんのために生まれたのかわからないもの。まったく、もう、ねえ!」
× × ×
姉さんが月蝕カルマ水を売り始めたのは、両親が死んでからだ。
父と母は、時速900キロのスピードでインド洋につっこんで死んだ。結婚30周年、初めての海外旅行中の飛行機事故であった。航空会社がよこした小さな箱には、遺骨の代わりなのであろう、簿くて平たい長方形の御影石が入っていた。若き日の父と母が最初のデートで観た映画は『2001年宇宙の旅』だった。
そういうものだ。
× × ×
葬式。
僕は弔問客と親戚の対応に忙殺されて、悲しむヒマさえなかった。
叔父も叔母も僕らを引き取ることを躊躇しているようにみえた。
僕らは遺伝子学的には彼らの一族ではなかった──と事態をくくるのはフェアではないかもしれない。僕も理有も姉さんもそのころはまだ学生だった。学生をいきなり三人も養うというのは、赤ちゃんを三人生むのとはわけが違う。そこには人生計画の洗い直しと、価値観の再構成が存在する。やわなことではない。
とにかく──僕は忙しかった。
理有は部屋にこもって泣くだけだった。姉さんは遺影の前に。ぺたんと座って、しらけた表惰でずっと経済新聞を読んでいた。株式市場の、よくわからない数字や記号がずらり並んだぺージをひたすら睨んでいた。やがて姉さんは顔を上げて、誰に言うでもなく、ぽつりと言ったのだった。
「わかった。なにもかも、わかった」
× × ×
僕は、姉さんの奇妙な仕事が嫌いだった。
もちろん、姉さんがインチキな水を売って僕たちを養ってくれた事には感謝している。けれども、姉さんが持つと自称する『ちから』なんて、一度たりとも信じたことはなかった。
逃避。すべてが逃避の諸相であることを、僕は理解していた。
みな、怖いのだ
人生がリアルであることが恐ろしくてしかたがないのだ。なにか夢みたいな不条理に──アンチリアルに依存したいのだ。たとえばカミサマに。たとえば月蝕カルマ水に。姉さんは弱者たちの人柱であり、姉もまた同様に弱者であった。つまりはそういうことだ。
× × ×
姉さんが、近所のディスカウントストアで6本600円の『自然名水ぺットボトル』を箱買いする姿を、晴れた日の夕方によく目にしたものだ。僕に気づくと、彼女は照れくさそうに、そして少し哀しげに笑うのだった。
「真ちゃん、運ぶの手伝ってヨ?」
× × ×
僕はいま、理有と僕自身を養うために、月蝕カルマ水を売り歩いている。綺麗な小瓶にディスカウントストアの水を詰めて、黒いアタッシェケースに詰めて歩く。宣伝はしない。口コミで商売をする。呼ばれればF県まで車で向かう。話を聞く。三万円で月蝕カルマ水を売る。ただの水だ。それでも何人かは「救われた」と涙を流す。今日の依頼人みたいに、僕と寝ようとさえする。
姉さんは死に、理有は流産し、僕は水を売り、それでも世界は止まらず、人生は流れる。
× × ×
姉さんはよく、「カミサマ」について語ったものだった。
「カミサマは空の上にはいないのよ。あれはウソね。カミサマ空の上にいると語る宗教、全部二セモノね。ふふふ。カミサマは私たちの中にいるのよ。姉さんの場合はそうだなあ、ドルチェがカミサマなのね。ドルチェ覚えてる? 死んじゃった私たちのアメリカンショートへアー。お母さんとお父さんが買ってくれたドルチェ。肺炎で死んだ。でも私のカミサマになったのよ。まったく、もう、人生ってわからないわねえ。ところで、ねえ。ところで真ちゃんのカミサマは、なあに?」
× × ×
姉さんの残した遺書には、こう書き残されていた。
「わたしは、カミサマをにくむ」
× × ×
カルマ落としを終えて外に出ると、あたりはすっかり夜に飲み込まれていた。
吹く風はしっとりと雨の気配を合んで、濡れた和紙みたいに肌に張り付いた。三時間締め切ってあった車内はちょっとした移動式サウナに化けてぃる。僕はエンジンをかけ、そしてクーラーがついに死んでしまったことを知る。
やれやれ。あらゆるものが組織的ないやがらせで僕をうんざりさせようとしているように思える。
駅まで車を走らせ、依頼人に紹介された店を探す。草餅がうまいらしい。この町の名物だという。
「急がないとお店、閉まっちゃいますよ」
彼女は言った。
「東京と違ってここ、夜、早いですから」
小さな商店街を歩く。
端から端まで三分もあれば足りる典型的な地方の駅前商店街だ。
八百屋。精肉店。文具店。洋品店。家電ショッブ。酒屋。自転車とバイクを売る店。シャッターを下ろしている最中の店もあれば、すでに下ろし終えた店もある。
どの店も宿命的な倦怠感を漂わせてぃる。鈍いあきらめのような空気が地層みたいに積もっている。この商店街は10年前もこんな様子だったし、おそらくは10年後もこんな様子なのだ。そんな予感。停滞がもたらす淀み。それは、どこにも行けないのだという閉塞感だ。
僕以外、ただひとリの買い物客の姿もない。
草餅を売っている店は見つからない。見落としてしまったのだろうか? 商店街の端に座っていた犬が、僕の顔を見てのっそりと立ち上がり、溶けるように暗闇へと消えていく。そうして商店街は完全に営業を終えたのだった。
がらんとした駅前通り商店街に、僕はひとり取り残されてしまったのだった。
まるで疫病神にでもなった気分だった。僕が来る。シャッターが閉まる。僕が去る。シャッターが上がる……。
「歓迎・ふれあい通り商店街」と記された街灯が、僕の影をアスファルトに明滅させている。ふと、思った。街灯が消えたら、僕自身も消えて無くなってしまうのではないか? 見上げれば、街灯は神経症的な音を立てて明るくなったり暗くなったりをくりかえしている。羽虫やら蛾やらのあまり気持ちのよくない虫が群れて踊っている。そしてなんの前触れもなく、大きな感情の波が僕の心をばらばらにする。
膝から下が木っ端と砕けてしまった気分。
立っていることすらままならない。
よるよろと道の端に腰を下ろす。
膝と膝のあいだに頭をうずめる。
息を殺す。
どうしようもなく寒くて、哀しくて、怖い。
こんなことになんの意味がある?
僕は思う。こんなことになんの価値があるというのだ。 僕は世界の果ての詐欺師だ。誰とも繋がっていない。どことも繋がっていない。
いっそ、電脳カルトにでもはまってしまえたらと思う。赤の他人にカルマを背負わせて、永遠の自己満足に浸って死ねればと思う。
でも、それほどの馬鹿じゃない。
「人生を変える101の方法」「心を明るくする30の提案」「誰もが知っているのに実行していない69の真実」──そんなものに啓蒙されるほど、チープにはできていないのだ。僕は知っている。そんなものでは世界は変わらない。月蝕カルマ水が姉さん自身を救えなかったように。僕はそれを知っているのだ。
なのに──
なのに僕は、どうすれば世界を革命できるかを知らない。
弱さに浸れるほど弱くはなく、強く生きるほど強くなく。
僕はどこにも行けない。行けるとしたって、それはロストハイウエイだけだ。哀れなライリー・Rが行くしかなかった場所。内的地獄。あるいは外的地獄。すべては子め定められている。だとしたら、なあ、ヤング・ディラン。こんなことになんの意味があるというんだい?
大丈夫だ。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
いつものことじゃないか。
これはただの一時的な感情の混乱で、やがて過ざ去っていくものなのだ。いつまでも僕を苦しめることはできないし、捉え続けることもできない。ただじっと身を固めて、うねりが去るのを待てばいいのだ。
ものごとはまさにそのとおりに起こる。
数分後、僕はすっかリ自分を(あるいは自分であると信じているものを)とりもどしている。残っているのはちょっとした疲労と、気持ちの悪い汗だけだ。オーケイ。僕は十分にクールで、ポップだ。
オーケイ。
僕は死んでしまった商店街を引き返し、車に命の炎を点す。
そして帰り道、僕は時速90キロで水上夏樹を撥ねたのだった。
水上夏樹
あるいは僕はそのとき本当に水上夏樹を時速90キ口で撥ね飛ばしていて、制暦2002年の夏、僕を魔法の国へと導いた女は幽霊か何かだったのかもしれない。いまでもそう思うときがある。
「私は生きてる」
けれども助手席に座った水上夏樹は、手のひらをそっと僕の膝の上に置いてみせたのだった。
「こんなにリアルに、生きてる」
彼女の指はほっそりと長く、蝋のように白かった。手の甲には青い静脈がうっすらと浮かび上がっていた。爪の先まで完壁に手入れが行き届いていた。なんだかまるで人間の手には見えなかった。手が宿命的に抱える従属性や機能性から独立して、もはや手であることだけで完結した存在であるかのように思えた。世界美手コンテストというものがあるとしたら、それは間違いなくいなく上位にランキングされるべき手だった。
「きれいな手だ」
僕は言った。
「きれいな手だ」
彼女はくリかえした。
「手を褒められるのって嫌いじゃないわ。ありがとう」
「どういたしまして」
「あなたの膝も悪くないわ」
「膝」
僕は言った。
「世界美膝コンテストに出れば間達いなくいなく上位にランキングされるべき、膝」
「おかしなひと」
彼女は小さく笑った。
× × ×
道は夜の中に完全に沈みこみ、へッドライトだけが頼りなく世界を切り裂いていた(言うまでもなく、ロスト・ハイウエイには街灯なんてやわなものはないのだ)。一瞬、リアウインドウになにかの影がよぎった。そして──それまで人を撥ねたことはなかったけれど、人を撥ねるとおそらくこういうことになるだろう、という衝撃が僕と僕の車を揺るがした。
急ブレーキ。ゴムが焦げる匂い。恐怖。焦燥。後悔。
車が止まってからも僕は外に出ることができなかった。シートに頭をもたれ、無意味な深呼吸を何回も繰り返した。
胃は喉までせりあがり、心臓はチャーリー・ワッツのドラムソロみたいなありさまだった。だから
「──乗せてくれるの?」
という声をドア越しに聞いたときは心底篤いたし、実際、座席から飛び上がりもした。
開け放たれたサイドウインドウの向こうから、女の顔がのぞいていた。
短く切った黒い髪が、描みたいな目にくるくるとかぶさっていた。黒目がちで、その黒は夜の闇よりもなお深かった。
それが水上夏樹だった。
× × ×
水上夏樹がどうして夜中のハイウエイを一人で歩いていたのか──僕が撥ねたものの正体と同じく、それはいまだに深い秘密の影のなかにある。彼女はただ
「散歩」
とだけ言い、それ以上なにも語ろうとしなかった。若い女の子が深夜のハイウエイを散歩するなんて聞いたことが無かったけれど、僕はあえてそれ以上詮索しようとは思わなかった。彼女は僕にとって他人で、僕は彼女にとって他人だった。
「あなた、神父さん?」
ラジオのスイッチを切って、水上夏樹が唐突に言った。
「神父?」
僕は言った。
「その服。神父服でしょう?」
「ああ、そうだ。でも僕は神父じゃない。セールスマンだ」
「聖書でも売ってるの?」
「いや」
「じゃあ十字架?」
「十字架も銀の弾丸も免罪符も扱っていない。水を売ってるんだ」
「水」
「一リットル百円で仕入れて、ひと瓶三万円で売る」
「それって完壁な詐欺じゃない?」
「どうだろう。信じられないかもしれないけれどこの水で救われている人もいるんだ。わざわざ東京からこんな辺鄙なところまで出張もする。誠意を持って相手の話を聞く。クーラーが壊れる。お土産の草餅は買えない。そういった点を考慮に入れると完壁な詐欺というのはシビアな評価かもしれない」
「限リなく完壁に近い詐欺」
「それが妥当な評価だろうね」
「インチキな水を売ってる人の車に乗るのって初めてだわ」
「僕も幽霊を乗せるのは初めてだ」
ふふん、と彼女は小さく笑った。沈黙が満ちた。しばらく彼女は窓の外をじっと見詰めていたが、やがて、ぽつりと
「初めてセックスした相手は聖書の訪問販売の男だった」
と言った。闇を見つめたまま、彼女は続けた。
「小さいとき、留守番をしていたらその男がやってきたの。『ご両親はいらっしゃいますか?』『いません』『実はありがたい言葉がたくさん書かれている本を配っているんです。お嬢さん、本はお好きですか?』『好きよ』『それじゃあ、少し話を聞いてくれるかな?』『少しならいいわ』。暑い夏の日だった。そして私たちはひとつになった──。どう、面白いと思わない?」
「それって本当の話なのかい?」
「まさか」
水上夏樹はけらけらと笑った。それから突然
「──世界の果て」
と言った。
「ねえ、ここってまるで世界の果てみたいだと思わない?」
「世界の果てなんて、ない」
僕は言った。
「あるとしたら、それは僕たち自身だ。僕たち自身が定点のない世界の果てだ」
気がつくと、水上夏樹は僕の顔をじっと見つめていた。
「連れて行ってあげる」
彼女は言った。
「連れて行ってあげる。世界の果てに」
と水上夏樹の手が車内の闇のなかを伸び──それはそんなときまで美しく、完壁な手だった──ハンドルを握り……
次の瞬間、世界が回転した。
車は完全に制御を失っていた。僕と、僕の車と、水上夏樹は、いかれた駒のようなダンスをロストハイウエイで踊り、路肩に乗り上げ、そしてアスファルトの上を数回転して無様なフィニッシュを決めた。
そして目を覚ましたとき、僕は『赤い部屋』にひとり佇んでいたのだった。
还有一些其他内容 这里放直接放下载链接吧:http://www.mediafire.com/?x9egsqgy5h8f7fr
再附带个101的INVITATION:http://www.mediafire.com/?1jzm7bb0mb97jf1
原blog(建议阅读):https://koinucomputerscans.wordpress.com/2013/03/03/the-original-shoujobyou-and-the-hunt-for-the-artist/(作者说没有完整的扫图 就比如这张图左边的那张CG并没有清晰的扫图 但这是他能找到最完整的了 他还试着去寻找担任少女病03年版本的原画同样也是101原画的貴森裕友的去向 可惜无果)
以下是文字部分
<ATTENTION!>
このページは、公爵(デューク)様が今冬発売予定として製作している18禁ゲーム「末期、少女病~Lyrical pop World's end~」宣伝用として配布されている小冊子の内容を電子化したものです。
著作権とか公爵様のものなので無断転載はダメダメです。
私自身、正式な許可を得て上げてるものでもないんで怒られたら引っ込めますし。
それからこの先のページには残酷シーンや、暴力描写、性的描写なども含まれてるので、そーゆーのが駄目な人は読んじゃいけません。
んで、真似たら犯罪者になるような真似は真似んなや?
以上、お約束を守れる人だけ光と共に歩め!(それ前作)
黙示録のカレンダー
制暦2001年2月3日。
今崎浩二(28歳・無職)は、インターネットから以下の知識を手に入れた。
月経周期は、以下のように繰り返される。
排卵の時期になると、脳の視床下部から性腺刺激ホルモンが分泌される。このホルモンは、脳の下垂体に卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌を指令する。
まず、卵胞刺激ホルモンが卵巣へと分泌される。これを受けていくつかの卵胞が肥大し、その際にエストロゲンが分泌される。エストロゲンは血液を介して子宮に到達し、子宮内膜を成長させる。
血液中のエストロゲンの増大によって、脳の視床下部は、「卵胞の十分な成熟」と「子宮内膜での妊娠準備の進行」を判断。続いて脳の下垂体に、黄体化ホルモンの分泌を指令する。
黄体化ホルモンが多くなると、脳の体温の中枢が刺激されて体温が上昇する。黄体化ホルモンは卵巣へ分泌され、肥大した卵胞を破裂させる。これが「排卵」である。
排卵後の卵巣では、黄体化ホルモンが黄体を形成する。この黄体から、プロゲステロンが分泌される。プロゲステロンは子宮内膜を柔らかく変化させ、妊娠の準備を進める。
妊娠しなかった場合は、排卵からおよそ二週間程で子宮内膜が剥離する。これが「生理」である。 月経周期は、一般的には28~35日周期になっている。そして周期の長短に関わりなく、次回月経予定日の12~16日前に排卵が起こる。
今崎浩二はそれから一年にわたって、Y家のごみ袋を集積所から回収し続けた。そしてごみ袋のなかから、使用済みの生理用ナプキンだけを丁寧に選り分けた。
回収されたナプキンは彼の自室の壁に貼リ付けられることとなった。添作作業にはセロハンテープが使用された。
やがて壁は戦利品たる赤黒いナプキンで覆い尽くされ、結果的に、そこにはY家の姉妹の月経周期が浮かび上がることとなった。今崎浩二はそれを「黙示録のカレンダー」と呼んだ。
失敗は許されなかった。
機会は一度しかなく、それは世界を救う唯一の方法だった。人類が昇華へど至る最後の道であった。今崎浩二は孤独に耐えた。
彼はもともと孤独な男であった。五年以上、彼の部屋だけが彼の世界だった。閉じられた世界のなかで、彼は、自分にぴったりと寄リ添う孤独という名の呪いを諦観していた。孤独であること。それは生まれたときから魂に刻まれているしるしのようなものなのだ。骨に巣食う病気や肌の色と同じで、そのありさまをを選ぶことはできない。
もちろん表層を塗り変えることはできる。だが、そんなものは雨の日のへアスプレーみたいに剥げ落ちる。なぜならそれが本質というものだからだ。静かに向かい合って生きていくしかない種類のものごとが世界には存在するのだ。
しかし、使命感は、彼の孤独を孤独として浮かび上がらせることとなった。彼は孤独を恐れるようになった。そんなとき──「おれは戦車だ」──今崎浩二は、嫌な匂いがむっと鼻をつく部屋でひとりつぶやいた。おれは戦車だ。
キュラキュラキュラ! それ以上はなにも聞くな!
今崎浩二はこのようにして決行日を導き出した。
彼はY家に押し入リ、Y家の三姉弟──長女、次女、長男──を全員縛リ上げた。
彼はまず長女を包丁で脅し、弟のぺニスを咥えさせた。長女は泣きながらそれを拒絶したが、次女の肩口を包丁で一突きすると(そして次女が絶叫を上げると)、自ら進んで「します」と言った。
長男はすぐに勃起した。
それどころか、姉の口腔に精液を放った。
今崎浩二は烈火のごとく怒った。
長男の腹を蹴飛ばして悶絶させ、それから長女に命じて、次女の手のひらに精液を一滴残らず吐き出させた。そしてこう命じた。
「姉ちゃんの子営にそれを全部流し込むんだ」
きょとんとする次女の肩の刺し傷に、今崎浩二は親指をねじ込んだ。
「早くしろ、戦車が壊れてしまう!」
その作業は、スポイトを使って行われた。
次女は涙を流しながら兄の精液をスポイトで吸い取り、姉の膣口へと流し込んだ。姉妹がすすり泣く声と、じゅるじゅるという淫靡な音が暗いリビングに響いていた。今崎浩二はそんな種付け作業を見ながら自慰をして、次女の髪の毛に大量の精液を放った。呆然とする次女の髪をぐしゃぐしゃとかき回しながら、今崎浩二は宣言した。
「よし、次はお前の種付けだ」
長女が泣きながら懇願した。──私ならどうなってもかまいません。妹だけは許してください!
今崎浩二は交換条件を出した。
「一時間以内に、弟が勃起しないくらい射精させたら妹は許してやる」
弟の上に跨って腰を上下させながら、長女はうわごとのように「ごめんね、ごめんね」と繰リ返していた。あっという間に2発の精液が長女の子宮に流し込まれた。繋がりあった姉弟の性器が、ぶじゅぶじゅと異様な音を立てた。
精液と愛液が混じりあった液休が半透明のあぶくを作っていた。あぶくは姉弟の性器が上下するたびにぱちんと弾けて、糸を引き、またあぶくとなった。
40分過ぎ、長女は勢いを失った弟の性器を自分の性器から引き抜き、指と胸と舌と唇を使って再び完全に勃起させた。「ごめんね、ごめんね……」。長女は弟の性器を手で固定して、自分の性器に押し当て、腰を下ろした。ぶぶっ、と空気が漏れる音がして、姉弟は再びひとつになった。ふたりは命令されるがままに唇を合わせた。桃色の舌が絡み合い、唾液がふたりの顎を汚した。唇を離すと、白い唾液がだらりと太く姉弟をつないだ。ねっとりとしたそれはしぶとく重力に逆らい、最終的に、顔を背けた長女のほほから下あごにかけてべったりとこびりついた。ふたりとも汗まみれで、全身が蛍光灯にてらてらと照り輝いていた。次女は、兄と姉との交尾を見ながら自慰をすることを命じられた。手が止まったり、目をそらしたりした瞬間、今崎の指が傷口をえぐった。
結局、一時間の間に長男は5回の絶頂を迎えた。
姉の性器から引さ抜かれたぺ二スは、くったりと勢いを失っていた。
「ようし、立つかどうかテストだ」
今崎浩二は次女を後ろから抱え上げ、兄に向かって両足を開かせた。次女のパンティはじっとりと湿っていて、薄布のうえには性器の形が浮かび上がっていた。
「おい、勃起させれば妹とやらせてやるぞ?」
今崎浩二は次女の性器をパンティ越しに撫でさすりながら、そこの手触りを丁寧に説明した。次女はすでに流す涙も無く、呆然とされるがままになっていた。長女もまた、放心したかのように天井を見上げて動かなかった。
パンティを引き抜くと、クロッチと性器の間を白い液が糸でつないだ。熱気にしっとリと湿った陰毛を撫でさすりながら、今崎浩二は仕上げに入った。
「いい機会だ。妹の×××で女の勉強といくか」
今崎浩二は長男の襟首をつかみ、広げた妹の股の間に押し村けた。そして次女の性器を指で押し広げ、性器の解剖学的な名称と俗称を説明してみせた。長男の性器は完全に勃起してぃた。
「そうか、そんなに妹としたいか!」
今崎浩二は笑った。
今崎浩二は長女に、妹の処女喪失の手伝いをする権利を与えた。
「痛くて死んじまわないように、優しくやりかたを教えてやれ」
長女はもう逆らわなかった。
仰向けになった長男のぺ二スをまたぐ形で、次女は立てひざをついた。長女が弟のぺ二スを握り、妹の膣にあてがった。「いい?2、3回チョンチョンって突いてから、ちょっと強めに押すのよ。それを何回も根気よく繰り返すの」とアドバイスした。
次女は、姉のアドバイスのとおりに兄の性器を受け入れた。
長女がじっと見守るなか、次女の腰の動きが少しずつ速くなっていった。
やがて長女は両手で妹の肩を支え、「1・2の3」と言いながら全休重をかけた。次女が痛みに悲鳴を上げ、身をこわばらせて凍りつぃた。長男のぺ二スが根元まで、妹の胎内に埋まっていた。
兄の性器で串刺しにされたまま、次女は震えて動かなかった。息だけが荒く、涙が桜色に上気した頬を伝い落らた。
何かを言おうと唇が開いたが、言葉は出てこなかった。水のような涎がつう、っと糸を引いてこぼれた。涎は次女の胸のふくらみに落ち、なめくじのようにゆっくリと糸を引いて兄の胸へと滴った。
かくして今崎浩二は、Y家の姉妹を血族の精液で妊娠させたのだった。
これによって、Y家の素晴らしい血統は守られることとなった。現代社会は、血が繋がった姉弟、兄妹が子をなすことをタブーとしている。しかし、そんなものはまったくのナンセンスだ。カルマを払う聖なるカを汚れた血で汚してはならない。それは人類の損失に他ならない。人類の財産は──未来は──戦車である俺の手によって守られたのだ!
今崎浩二は笑いながら包丁を自分の腹に突き立てた。
「おれは戦車だ!」
25回刺すまで、今崎浩二は死ななかった。
キュラキュラキュラ。
しかし、今崎浩二の行為はまったくの無意味だったのである。
Y家の三人はみな養子で、血が繋がっていなかったのだ。
すなわちこの寓話の教訓はこういうことだ。
人生とはオチの無い冗談でしかない。
──そういうものだ。
世界の果てを車はゆく
カーラジオの男が言う。
「今年の冬の流行色はあおいろです」
その話題は僕の心を奇妙な方向にスライドさせる。座りの悪いどこかへと連れてゆく。
ガラス窓の向こうは摂氏34度の世界で、冬の到来はアコーディオン状に折り重った熱気のはるか彼方にある。夏。
完壁な夏がそこにはある。象徴としての夏でも、形而上の夏でも、詩的比喩としての夏でもない。リアルでシンプルな夏。アクセルを踏み込むと時速90キロで後方に流れ去っていく夏。
それでもカーラジオの男は予言する。「今年の冬の流行色はあおいろです」。
やれやれ。
僕は思う。
僕たちを取り囲む多くのものごとがそうであるように(あるいは僕たちそのものがそうであるように)、来たるべき冬の流行色もまた定められているのだ。
「今年の冬の流行色はあおいろです」。
それは正確には予言ではなく、予定なのだ。
ハンドルを指で叩きながら──とん・とん・とん──個人的営為と絶対的運命の相克について考える。そのシビアなしのぎあいのなかで、僕がふさわしい自我を得ることができる可能性について考える。もちろん少しのあいだだ。
煙草一木分の時間。それ以上考えたところで辿り着く場所は決まっている。なぜならすべては予定されているのだ。
冬の流行色みたいに定められている。
オーケイ。
諸君、ロックしようじゃないか。
カーラジオのチャンネルをひねる。
アナウンサーの声が雑音に溶け、かわりにギターの音色が夜の霧みたいにスピーカーからこぼれ出す。大昔のプロテスタントソング。ロックと呼ぶにはあまりにフォークじみたしろもの。
まあいいさ、と僕は思う。
まあいいさ。自我についての沈思黙考に比べれば、ずいぶんと健康的でドライブ的だ。イエス。すべては比較の問題だ。どちらがよりマシか。より長い期間我慢できるか。吐瀉物と排泄物のどちらがより詩的かというような意味合いにおいて、それは無意味で限定された選択なのだ。無意味で/限定された/選択。とん/とん/とん。
ライリー・Rをころしたのはだれだ?
なぜ、どんなわけがある?
十五人の奇術師が おれにいう
「いいかい ヤンク・ディラン
人生は 坂道で起こる事故みたいなもの
制御できない悲劇の連続のなか
われわれがなせることは あまりに少ない
だとしたら なあ ヤング・ディラン
ライリー・Rは ロストハイウエイにいくしかなかったのさ」
リアルな僕の世界についてのインフォメーション。
F県I市。東京から車で三時間のポイント。 僕たち(つまりは僕と、僕の車)は時速90キロでハイウエイを移動してぃる。まっすぐなハイウエイ。カール・ルイスが全カでラインカーを走らせたみたいにまっすぐ。見渡す限リ他の車の姿はない。僕たち専用の失われたハイウエイだ。
ハイウエイの両協にはホ口コースト的な荒野が広がっている。すべてが白っぽい砂利に覆われてぃる。田畑どころか、木も草もない。信号機も、民家も、コンビ二も、ばかげた交通標語の看板もない。──いいかいヤング・ディラン。交通標語の看板さえないのだぜ? 『ギュッと締め/心とからだの/シートべルト』。極めて完壁に近いかたちの無意味。そしてここには、そんな無意味さえありはしない。100パーセントの荒野。
30分はど前、放棄された原子力発電施設の脇を走り抜けた。
閉鎖されて久しいのであろう。かつてそれが抱えていたはずのべらぼうなエネルギーは、洗いざらしのジーンズみたいに漂白されてしまっていた。それは僕に巨大な動物の死骸を思わせた。しんどそうなため息をひとつついて、次の瞬間あっけなく死んでしまった生き物。そしてそれは死骸的であると同時に墓標的でもあった。
陰鬱な光景だった。世界に動きはなく、のぺっりとした均一性の上に夏だけが満ちていた。時間さえも死んでしまったように思えた。なにもかもが身を固めて、息をひそめていた。空は灰色で暗く、黒い雲がものすごい勢いで此方から彼方へと流れていった。
すてきな すてきな ロストハイウエイ
へイ いかれたガチョウにしがみつけ
すてきな すてきな ロストハイウエイ
へイ いかしたハンドルを握るんだ
──世界の果て。
僕はそんな言葉を思う。舌に乗せ、声に変えてみる。
「世界の果て」
悪くない。
それは時速90キロで夏をゆく僕の車のなかに、素敵に響く。
リリカルだ
詩的にリリカルで、駄菓子みたいにポップだ。
LYRICALでPOPなWORLD'S END──。
「世界の果て」
けれども二度目に口に出してしまうと、それはもうちっともリリカルでもポップでもなかった。魔法は失われてしまっていた。ただ白々しく、虚しいだけだった。
なぜだろう?
もらろん──僕にはわかっている──世界の果てなど本当はどこにもないからだ。
辿り着いた瞬間、世界の果てはリアルなフロンティアに化ける。僕たちはそこで生きていくしかない。その時点ですでにそこは『ここではないどこか』──世界の果てではなくなってしまっているのだ。僕たちが辿り着くたびに、世界の果てからは世界の果て性とも呼ぶべき神秘が失われる。一歩前に出ればその一歩先に。伸ばした手のすぐ先にありながらも決してつかむことができない。
あるいは、僕たち自身が定点のない世界の果てなのかもしれない。
僕たちが前に進む。世界の果てもまた前に進む。亀に追いつけないアキレスみたいに、僕たらは世界の果てには辿り着けない。それはすなわら、僕たらは僕たち自身をつかむことはできないし、僕たち自身から逃げることもできないということなのだろう。
カーリングみたいにシビアで、トライアスロンみたいにハード。
つまりは現実的ということだ。
やれやれ。
カルマ落とし
「御茶ノ水という町が好きだったんです。
少し足を伸ばすと秋葉原だとか、後楽園遊園地だとかで賑やかなんですけれど、私は御茶ノ水の静かさが好きで。
とりわけ特徴がある町というわけはないんですけれど、メイン通りから少し中に人ったあたリ──ニコライ堂とか。あのへんの空気が好きなんです。洗練された田舎というか、やぼったい都会というか。わりあい緑が残っているんですよ。ああ、そんなこといわなくてもご存知ですよね、東京の人だから。
町って、どこであれ、そこにしかない空気感みたいなものがあるものですよね。その波長が合うか、今わないか。
御茶ノ水は、合った。そういえば、友達と、『町の色』っていうのを話したことがあるんです。町には固有のイメージカラーがあるんじゃないかって。池袋は青。秋葉原は赤──なんでだろう。赤いネオンが多いから? あはは……。たいした統一見解は得られなかったんですけれど、「御茶ノ水は緑」というのだけはピッタリあって。そんなこと、覚えてます。
あのあたり──JR水道橋駅に近づくと特に──坂が多くて、自転車はあまり役に立たないんです。だから原付自動車の免許を取りました。大学一年の夏休みです。行動範囲が広がりました。これさえあればどこにだっていける──。わけもなくあたりを走り回ったものです。暑くなったら本屋に入るんです。本を読みながら、汗が引くのを待つ……。
本は、そんなに読むほうじゃないんです。べストセラーとか、情報雑誌とか。そういうのをときどき読むだけ。
すみません。
東京の夜って、お墓みたいじゃないですか。
昼間はあんなに賑やかで人がいっぱいなのに、夜になると誰もいない。そういうのがお祭りの後みたいでいやだったんです。哀しい気持ちになるから。新宿で飲み会があって終電を逃したとき、歩いて家に帰ったんですけれど──哀しかった。すごく哀しくて、涙が出そうになりました。核戦争のあと、世界で一人だけ生き残っちゃったみたいに哀しかった。コンビニは開いてます。でも、コンビ二の蛍光灯もすごく白々しく見えた。切り離された感じ。ひとりなんだって、思った。
でも、御茶ノ水の夜はそうじゃないんです。
もちろん人はいないし、静かです。でも、いやな静けさではないんです。せいせいとした、凛とした──昼間のおまけじゃないんだって。そんな夜。優しい夜。
家賃は安くはなかったですね。でも、親の仕送りがあったから。半分の6万円はそれで賄っていました。残リはアルバイト代で。友達は沿線に引っ越せって、しきリにアドバイスしてくれたんですけどそれでも御茶ノ水が好きで。
あの日もアルバイトにいく途中だったんです。新宿の××って喫茶店。サラリーマンのひとが打ち合わせで使う喫茶店で──笑えるでしょう? みんな笑うんですよ、じじくさいって。
中央線を使うんですけど、よく遅れるんです。ほら、人身事故とか、いろいろ。その日もなにがあったのかしらないけど、いったん、代々木の手前で止まっちゃったんです。10分くらい止まっていたかな? ……いえ、昼間だから混んでいなくて、そういう意味でつらいということは。ただ、バイトに間に合わないって、焦っていました。時間は守るはうなんです。一度も遅刻したことないです。いやなんです、そういうの。すごく。別にとくべつ几帳面というわけじゃないんですけど、時間は、うん。だから焦ってました。
そしたら、胸の部分にビシャーッって。
最初、野球のボールでもぶつけられたと思ったんです。液体というよりも、固体がぶつかった感じで。でもじっとりとしていたから、ああ、これはぺンキかなにかだって。
買ったばかりの白いTシャツだったし──こいつはなんてことするんだ、って、すごく腹が立ったんです。だから、前に座ってる子をジロッってにらんだら、その子も私を見てた。目と目が、合ったんです。高校生くらいの男の子で。とたんに、怖くなった。殴られる、って思いました。どうしてかわからないけど、殴られるって。
でも、なんかその子、真っ赤なんです。首の下からズボンまで、真っ赤で。のどからぴゅー、ぴゅー、って噴き上がってるんです。スプリンクラーみたいに……ああ、血だ、って──。
吊り革をつかんだ手がこおりついて、逃げられなかったんです。
だから助けて、って叫びました。手が取れないんです、助けてください、って。
まわりのひとたらは、私の声で我に返ったみたいでした。悲鳴が聞こえて、隣の車両に逃げていく人とか、げえげえ吐く音とか。私は凍りついたまま、金縛りのまま。目をつぶって助けて助けて助けてって。
そうしたら、ずしっ、と抱きつかれたんです。
心臓が上まるかと思いました。
反射的に目をあけました。
血まみれのその子が席から立ち上がって、私に抱きついていました。
耳元で声がしました。
「ぺちゃぺちゃぺちゃっ」
って聞こえました。
だから
「えっ?」って。
そしたら大声で──。
「ワスレルナ!」
大声で言ったんです──」
× × ×
依頼人はそこまで言うと、深い沈黙の中に沈みこんだ。
彼女の視線は、テーブルの上のマグカップにじっと固定されていた。
マグカップのなかのコーヒーはすっかり冷え切って、表面にしなびた膜ができていた。東京を引きあげるときに持ってきたのであろう、テーブルやソファーは品がよく、垢抜けていた。けれどもオレンジやイエローのポップな家具はこの和室にはひどくなじんでおらず、どこか現実味を欠いていた。本来ここにあるべきではないものたち。ある種の哀しみすら湛えていた。クーラーが効きすぎていた。まるで小酒落た冷凍庫にいるみたいだった。
話を終えた彼女は、ひどく老け込んで見えた。 僕を出迎えて、コーヒーを入れて、ソファーに座ったときから二時間しか経っていないのに、もう200歳も歳をとってしまったみたいだった。彼女はマグカップを見つめていた。けれども本当はマグカップを通り越えたどこでもない空間をじっと見つめているのだった。彼女の目には何も映っていなかった。暗い井戸みたいなくらやみが、ぽっかりとあるだけだった。
本当は魅力的な女性なのだろう、と僕は思った。
御茶ノ水の坂ですれ違った人たちに、春の木漏れ日みたいな微笑みを浮かべさせる女性。けれども今の彼女からは、そうした種類の美徳がことごとく失われてしまっていた。ひどいことに、彼女は人間にさえ見えなかった。かわいそうなミイラみたいに乾いて、消耗していた。
そしてそれこそが、人狼輪廻教会が彼女にかけた呪いなのだ。
人狼輪廻教会。
チープな名前だ。彼らは拠るべき教会を持たなかったし、輪廻なんて信じていなかった。もちろん人狼でさえなかった。
その名前のこけおどし加減が、本質的な彼らのチープさを物語っていた。とどめに彼らはインターネット上にのみ存在する少年少女のカルトだった。電脳カルト人狼輪廻教会。勘弁してくれ。そして人狼たらは制暦2002年の夏──7月1日正午ちょうどに様々な場所で一斉に喉を掻き切り、自らのチープ性を完壁にしたのだった。
『互いの顔さえ知らない少年少女たちが──』
『デートの待ち合わせでもするかのように示し合わせて同時刻に命を絶つ』
『携帯電話によるうわべだけのコミュ二ケーションに不安を抱き──』
『ウソが横行する社会に共感を覚えられず──』
『電脳上の擬似コミュ二ティに居場所を見つけた少年少女──』
『そしてそれを永遠にするためには死を選ぶしかなかったのだ──』
人狼たらはウルトラチープな殉教者だった。ありがちな現代社会が生み出した、ありがちなピエロだった。多くの人間は驚くと同時に、鼻白んだ。「やれやれ」と思った。「こいつらはどうしてこんなにも馬鹿なんだ?」
彼らは間抜けだった。しかし、自分たらの意思表明がすぐに忘れ去られることぐらいは理解していた。その尊さに見合わず、自分たらの行為がワイドショーのドブ川に流れ消える数々のゴシップのひどつに成り下がることを知っていた。
だから人狼たらは個人に呪いをかけたのだった。
社会に名を刻むことができないのなら、個人にそれを刻んでやろう。
見知らぬ他人の前でいきなり喉を切った。
相手の目を覗き込んで言った。
「忘れるな」と。
彼らは、彼女たちに、革命への参加を強制した。傍観者として通り過ぎ、忘れることを許さなかった。共犯者に仕立てあげた。彼らは死んだ。しかし、ゼロにはならなかった。彼らがなにを考えていたのかは知らないし、知りたくもない。しかし、その想念は確かに残ったのだ。少なくとも、僕の目の前で虚空を眺めている(あるいは彼女自体がすでに虚空そのものなのかもしれない)依頼人の心には、深い傷として残った。
呪いとはすなわち、そういうものなのだ。
僕はアタッシュケースを膝の上に載せ、ロックをはずし、小瓶を三つ取り出し、机の上に一直線に並べて置いた。
薄暗くなった部屋の中で。小瓶は宝石のように輝いていた。
依頼人の顔に複雑な色が浮かんでいる。
この人はいかれているんじゃないだろうか?
そして私もまたいかれてしまったのではないだろうか?
「安心してください」
と僕は言った。
「月蝕カルマ水があなたの穢れを落とすでしょう。あなたが求め、そしてあなたを救う霊水です。あなたの穢れ──カルマは相当のものです。けれども中和することができます。見たところ、三瓶もあれば足りるはずです。これだけ置いていきます。足りなかったらまた私を呼んで、お話を聞かせてください」
「あの──」
「使い方はこの紙に書いてあります。危険なものではありませんが使い方を間違えると効果がありません。しっかり目を通して、それから使ってください」
「あの──」
「ひと瓶、三万円です」
とびきりの笑顔。
鏡で何回も練習したとびきりの笑顔。
安心してください。
なにも心配は要りません。
私が、あなたを、救済してあげましょう。
悪いのはあなたではないのです。穢れなのです。カルマなのです。
さあ、穢れを落としましょう。
カルマを落としましょう。
大丈夫です。
私に任せればなにもかもうまくいくようになります。
微笑みながら僕は思う。
姉さんも、こんなふうに笑ったのだろうか──?
姉さん。
百円ショップで買ったビ二ールロープを三重に首に回して、梁からぶらさがった姉さん。
ああ、姉さんもこんなふうに笑ったのだろうか……?
カルマ落とし
月蝕カルマ水を売り始めたのは姉さんだった。
姉さんは大きな団地の右端から左端まで、一軒一軒の呼び鈴を押してまわった。運良くドアを開けてもらえたときには、「水はいりませんか?」と、とびきりの笑顔できりだすのだった。
「──いえいえ、浄水機の押し売りなんかじゃないんですよ。わるいものを落とすとくべつな水を売っているんです。洗剤みたいにおちるんです。TVの通信販売でドイツのカーワックスの実演をしているでしょ? あれくらいおちるんですよ。もう、ごそーっ、て。大きな声では言えませんけど、月蝕カルマ水っていうんです。カルマってご存知ですか? 詳しくお話ししたいのですけれど……あア、暑いですね。まったく、もう、ねえ。暑くてたまらない。ねえ、よろしかったらおうちにあげていただけませんか?」
水がたくさん売れた日には、姉さんは、僕と理有をファミリーレストランに連れていってくれた。
彼女は店員に対して女王のようにふるまった。みんなが僕たらを怪訝そうに見た。僕は恥ずかしくてしかたがなかった。肘でつついて姉さんやめなよ、とたしなめたが、姉さんは決してやめようはせず、女王のように僕を叱るのだった。
「このひとのためじゃなぃ! ねえ、わかるでしょう、あなた? あなたよ、あなたに言ってるの。あなたもいつまでも女給みたぃな仕事やってる場合じゃないのよ。もっと世の中の役に立つ仕事をしなくちゃあ、なんのために生まれたのかわからないもの。まったく、もう、ねえ!」
× × ×
姉さんが月蝕カルマ水を売り始めたのは、両親が死んでからだ。
父と母は、時速900キロのスピードでインド洋につっこんで死んだ。結婚30周年、初めての海外旅行中の飛行機事故であった。航空会社がよこした小さな箱には、遺骨の代わりなのであろう、簿くて平たい長方形の御影石が入っていた。若き日の父と母が最初のデートで観た映画は『2001年宇宙の旅』だった。
そういうものだ。
× × ×
葬式。
僕は弔問客と親戚の対応に忙殺されて、悲しむヒマさえなかった。
叔父も叔母も僕らを引き取ることを躊躇しているようにみえた。
僕らは遺伝子学的には彼らの一族ではなかった──と事態をくくるのはフェアではないかもしれない。僕も理有も姉さんもそのころはまだ学生だった。学生をいきなり三人も養うというのは、赤ちゃんを三人生むのとはわけが違う。そこには人生計画の洗い直しと、価値観の再構成が存在する。やわなことではない。
とにかく──僕は忙しかった。
理有は部屋にこもって泣くだけだった。姉さんは遺影の前に。ぺたんと座って、しらけた表惰でずっと経済新聞を読んでいた。株式市場の、よくわからない数字や記号がずらり並んだぺージをひたすら睨んでいた。やがて姉さんは顔を上げて、誰に言うでもなく、ぽつりと言ったのだった。
「わかった。なにもかも、わかった」
× × ×
僕は、姉さんの奇妙な仕事が嫌いだった。
もちろん、姉さんがインチキな水を売って僕たちを養ってくれた事には感謝している。けれども、姉さんが持つと自称する『ちから』なんて、一度たりとも信じたことはなかった。
逃避。すべてが逃避の諸相であることを、僕は理解していた。
みな、怖いのだ
人生がリアルであることが恐ろしくてしかたがないのだ。なにか夢みたいな不条理に──アンチリアルに依存したいのだ。たとえばカミサマに。たとえば月蝕カルマ水に。姉さんは弱者たちの人柱であり、姉もまた同様に弱者であった。つまりはそういうことだ。
× × ×
姉さんが、近所のディスカウントストアで6本600円の『自然名水ぺットボトル』を箱買いする姿を、晴れた日の夕方によく目にしたものだ。僕に気づくと、彼女は照れくさそうに、そして少し哀しげに笑うのだった。
「真ちゃん、運ぶの手伝ってヨ?」
× × ×
僕はいま、理有と僕自身を養うために、月蝕カルマ水を売り歩いている。綺麗な小瓶にディスカウントストアの水を詰めて、黒いアタッシェケースに詰めて歩く。宣伝はしない。口コミで商売をする。呼ばれればF県まで車で向かう。話を聞く。三万円で月蝕カルマ水を売る。ただの水だ。それでも何人かは「救われた」と涙を流す。今日の依頼人みたいに、僕と寝ようとさえする。
姉さんは死に、理有は流産し、僕は水を売り、それでも世界は止まらず、人生は流れる。
× × ×
姉さんはよく、「カミサマ」について語ったものだった。
「カミサマは空の上にはいないのよ。あれはウソね。カミサマ空の上にいると語る宗教、全部二セモノね。ふふふ。カミサマは私たちの中にいるのよ。姉さんの場合はそうだなあ、ドルチェがカミサマなのね。ドルチェ覚えてる? 死んじゃった私たちのアメリカンショートへアー。お母さんとお父さんが買ってくれたドルチェ。肺炎で死んだ。でも私のカミサマになったのよ。まったく、もう、人生ってわからないわねえ。ところで、ねえ。ところで真ちゃんのカミサマは、なあに?」
× × ×
姉さんの残した遺書には、こう書き残されていた。
「わたしは、カミサマをにくむ」
× × ×
カルマ落としを終えて外に出ると、あたりはすっかり夜に飲み込まれていた。
吹く風はしっとりと雨の気配を合んで、濡れた和紙みたいに肌に張り付いた。三時間締め切ってあった車内はちょっとした移動式サウナに化けてぃる。僕はエンジンをかけ、そしてクーラーがついに死んでしまったことを知る。
やれやれ。あらゆるものが組織的ないやがらせで僕をうんざりさせようとしているように思える。
駅まで車を走らせ、依頼人に紹介された店を探す。草餅がうまいらしい。この町の名物だという。
「急がないとお店、閉まっちゃいますよ」
彼女は言った。
「東京と違ってここ、夜、早いですから」
小さな商店街を歩く。
端から端まで三分もあれば足りる典型的な地方の駅前商店街だ。
八百屋。精肉店。文具店。洋品店。家電ショッブ。酒屋。自転車とバイクを売る店。シャッターを下ろしている最中の店もあれば、すでに下ろし終えた店もある。
どの店も宿命的な倦怠感を漂わせてぃる。鈍いあきらめのような空気が地層みたいに積もっている。この商店街は10年前もこんな様子だったし、おそらくは10年後もこんな様子なのだ。そんな予感。停滞がもたらす淀み。それは、どこにも行けないのだという閉塞感だ。
僕以外、ただひとリの買い物客の姿もない。
草餅を売っている店は見つからない。見落としてしまったのだろうか? 商店街の端に座っていた犬が、僕の顔を見てのっそりと立ち上がり、溶けるように暗闇へと消えていく。そうして商店街は完全に営業を終えたのだった。
がらんとした駅前通り商店街に、僕はひとり取り残されてしまったのだった。
まるで疫病神にでもなった気分だった。僕が来る。シャッターが閉まる。僕が去る。シャッターが上がる……。
「歓迎・ふれあい通り商店街」と記された街灯が、僕の影をアスファルトに明滅させている。ふと、思った。街灯が消えたら、僕自身も消えて無くなってしまうのではないか? 見上げれば、街灯は神経症的な音を立てて明るくなったり暗くなったりをくりかえしている。羽虫やら蛾やらのあまり気持ちのよくない虫が群れて踊っている。そしてなんの前触れもなく、大きな感情の波が僕の心をばらばらにする。
膝から下が木っ端と砕けてしまった気分。
立っていることすらままならない。
よるよろと道の端に腰を下ろす。
膝と膝のあいだに頭をうずめる。
息を殺す。
どうしようもなく寒くて、哀しくて、怖い。
こんなことになんの意味がある?
僕は思う。こんなことになんの価値があるというのだ。 僕は世界の果ての詐欺師だ。誰とも繋がっていない。どことも繋がっていない。
いっそ、電脳カルトにでもはまってしまえたらと思う。赤の他人にカルマを背負わせて、永遠の自己満足に浸って死ねればと思う。
でも、それほどの馬鹿じゃない。
「人生を変える101の方法」「心を明るくする30の提案」「誰もが知っているのに実行していない69の真実」──そんなものに啓蒙されるほど、チープにはできていないのだ。僕は知っている。そんなものでは世界は変わらない。月蝕カルマ水が姉さん自身を救えなかったように。僕はそれを知っているのだ。
なのに──
なのに僕は、どうすれば世界を革命できるかを知らない。
弱さに浸れるほど弱くはなく、強く生きるほど強くなく。
僕はどこにも行けない。行けるとしたって、それはロストハイウエイだけだ。哀れなライリー・Rが行くしかなかった場所。内的地獄。あるいは外的地獄。すべては子め定められている。だとしたら、なあ、ヤング・ディラン。こんなことになんの意味があるというんだい?
大丈夫だ。
大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
いつものことじゃないか。
これはただの一時的な感情の混乱で、やがて過ざ去っていくものなのだ。いつまでも僕を苦しめることはできないし、捉え続けることもできない。ただじっと身を固めて、うねりが去るのを待てばいいのだ。
ものごとはまさにそのとおりに起こる。
数分後、僕はすっかリ自分を(あるいは自分であると信じているものを)とりもどしている。残っているのはちょっとした疲労と、気持ちの悪い汗だけだ。オーケイ。僕は十分にクールで、ポップだ。
オーケイ。
僕は死んでしまった商店街を引き返し、車に命の炎を点す。
そして帰り道、僕は時速90キロで水上夏樹を撥ねたのだった。
水上夏樹
あるいは僕はそのとき本当に水上夏樹を時速90キ口で撥ね飛ばしていて、制暦2002年の夏、僕を魔法の国へと導いた女は幽霊か何かだったのかもしれない。いまでもそう思うときがある。
「私は生きてる」
けれども助手席に座った水上夏樹は、手のひらをそっと僕の膝の上に置いてみせたのだった。
「こんなにリアルに、生きてる」
彼女の指はほっそりと長く、蝋のように白かった。手の甲には青い静脈がうっすらと浮かび上がっていた。爪の先まで完壁に手入れが行き届いていた。なんだかまるで人間の手には見えなかった。手が宿命的に抱える従属性や機能性から独立して、もはや手であることだけで完結した存在であるかのように思えた。世界美手コンテストというものがあるとしたら、それは間違いなくいなく上位にランキングされるべき手だった。
「きれいな手だ」
僕は言った。
「きれいな手だ」
彼女はくリかえした。
「手を褒められるのって嫌いじゃないわ。ありがとう」
「どういたしまして」
「あなたの膝も悪くないわ」
「膝」
僕は言った。
「世界美膝コンテストに出れば間達いなくいなく上位にランキングされるべき、膝」
「おかしなひと」
彼女は小さく笑った。
× × ×
道は夜の中に完全に沈みこみ、へッドライトだけが頼りなく世界を切り裂いていた(言うまでもなく、ロスト・ハイウエイには街灯なんてやわなものはないのだ)。一瞬、リアウインドウになにかの影がよぎった。そして──それまで人を撥ねたことはなかったけれど、人を撥ねるとおそらくこういうことになるだろう、という衝撃が僕と僕の車を揺るがした。
急ブレーキ。ゴムが焦げる匂い。恐怖。焦燥。後悔。
車が止まってからも僕は外に出ることができなかった。シートに頭をもたれ、無意味な深呼吸を何回も繰り返した。
胃は喉までせりあがり、心臓はチャーリー・ワッツのドラムソロみたいなありさまだった。だから
「──乗せてくれるの?」
という声をドア越しに聞いたときは心底篤いたし、実際、座席から飛び上がりもした。
開け放たれたサイドウインドウの向こうから、女の顔がのぞいていた。
短く切った黒い髪が、描みたいな目にくるくるとかぶさっていた。黒目がちで、その黒は夜の闇よりもなお深かった。
それが水上夏樹だった。
× × ×
水上夏樹がどうして夜中のハイウエイを一人で歩いていたのか──僕が撥ねたものの正体と同じく、それはいまだに深い秘密の影のなかにある。彼女はただ
「散歩」
とだけ言い、それ以上なにも語ろうとしなかった。若い女の子が深夜のハイウエイを散歩するなんて聞いたことが無かったけれど、僕はあえてそれ以上詮索しようとは思わなかった。彼女は僕にとって他人で、僕は彼女にとって他人だった。
「あなた、神父さん?」
ラジオのスイッチを切って、水上夏樹が唐突に言った。
「神父?」
僕は言った。
「その服。神父服でしょう?」
「ああ、そうだ。でも僕は神父じゃない。セールスマンだ」
「聖書でも売ってるの?」
「いや」
「じゃあ十字架?」
「十字架も銀の弾丸も免罪符も扱っていない。水を売ってるんだ」
「水」
「一リットル百円で仕入れて、ひと瓶三万円で売る」
「それって完壁な詐欺じゃない?」
「どうだろう。信じられないかもしれないけれどこの水で救われている人もいるんだ。わざわざ東京からこんな辺鄙なところまで出張もする。誠意を持って相手の話を聞く。クーラーが壊れる。お土産の草餅は買えない。そういった点を考慮に入れると完壁な詐欺というのはシビアな評価かもしれない」
「限リなく完壁に近い詐欺」
「それが妥当な評価だろうね」
「インチキな水を売ってる人の車に乗るのって初めてだわ」
「僕も幽霊を乗せるのは初めてだ」
ふふん、と彼女は小さく笑った。沈黙が満ちた。しばらく彼女は窓の外をじっと見詰めていたが、やがて、ぽつりと
「初めてセックスした相手は聖書の訪問販売の男だった」
と言った。闇を見つめたまま、彼女は続けた。
「小さいとき、留守番をしていたらその男がやってきたの。『ご両親はいらっしゃいますか?』『いません』『実はありがたい言葉がたくさん書かれている本を配っているんです。お嬢さん、本はお好きですか?』『好きよ』『それじゃあ、少し話を聞いてくれるかな?』『少しならいいわ』。暑い夏の日だった。そして私たちはひとつになった──。どう、面白いと思わない?」
「それって本当の話なのかい?」
「まさか」
水上夏樹はけらけらと笑った。それから突然
「──世界の果て」
と言った。
「ねえ、ここってまるで世界の果てみたいだと思わない?」
「世界の果てなんて、ない」
僕は言った。
「あるとしたら、それは僕たち自身だ。僕たち自身が定点のない世界の果てだ」
気がつくと、水上夏樹は僕の顔をじっと見つめていた。
「連れて行ってあげる」
彼女は言った。
「連れて行ってあげる。世界の果てに」
と水上夏樹の手が車内の闇のなかを伸び──それはそんなときまで美しく、完壁な手だった──ハンドルを握り……
次の瞬間、世界が回転した。
車は完全に制御を失っていた。僕と、僕の車と、水上夏樹は、いかれた駒のようなダンスをロストハイウエイで踊り、路肩に乗り上げ、そしてアスファルトの上を数回転して無様なフィニッシュを決めた。
そして目を覚ましたとき、僕は『赤い部屋』にひとり佇んでいたのだった。
还有一些其他内容 这里放直接放下载链接吧:http://www.mediafire.com/?x9egsqgy5h8f7fr
再附带个101的INVITATION:http://www.mediafire.com/?1jzm7bb0mb97jf1
今崎浩二以为自己所做的是伟业 其实一切都毫无意义 连他自己所定义的意义都是不存在的 确实是没有笑点的玩笑
人生就是没有收尾笑点的玩笑
LYRICALだ POPだ 然后是WORLD'S ENDだ
不错 这才有少女病的韵味 LYRICAL POP WORLD'S END
像阿喀琉斯追不上乌龟那样我们永远也到不了世界的尽头 亦或者我们自身就是世界的尽头哎呀哎呀
很有趣
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