#1 - 2023-10-27 21:17
仓猫
明日、冬月と浅草橋へ花火を買いに行くことになった。

寮の部屋に戾ってもそわそわする自分がいた。鳴海はバイトでいない。誰かと話して気を紛らわせたかったが、それもできない。

……一応、明日着る服でも決めておくか。

そんなことを考えていたら、スマホが振動した。

だれかから着信だろうか。画面を見ると、「こはる」と書いてある。

その文字を見て心臟が飛び出そうになった。冬月からのLINE通話だ。

「どうしたんだ。……明日は急用が入ったとかだろうか」

それはそれでも助かるな、と思いつつ、それはそれだと残念がる自分もいた。

「ばい。空野です」

通話を開始して、耳元にスマホを近づけると、

「……」

と、冬月は無冒だった。

? とうしたのだろう。

「もしもし?」

「………」

「おーい」と呼びかけると、ようやく冬月は応答してくれた。

冬月のやわらかくて高い声が耳元に響く。

「あ、はい! 冬月小春です!」

「知ってるよ。どうしたの?」

「ずみません。明日の待ち合わせ場所とか、時間とか、何も決めていなかったなあって思って電話してみたのですが、なんだか緊張しますね」

耳元で冬月の声がする。まるで顔の横でささやかれているみたいで、冬月に緊張すると言われ、僕まで緊張してしまいそうだった。

「緊張するって、大学でちょくちょく話してるじゃん」

「直接お話しするのと、電話ってこんなに違うんですね。すこく恥ずかしいです」

電話の向こう側で赤面していろ冬月を想像した。こっちまで顔が熱くなっていた。

「もう、こっちまで気恥ずかしいじゃん。早く、集合場所と時間を決めよう」

最初にギプアップしたのは僕だった。早く用件を片付けないと、こっちが参ってしまう。

「そうしましょう、そうしましょう」

「っていうか、僕がマンション前まで迎えに行くよ」

「それたとデートっぼくないじゃないですか」

「え。明日ってデートなの?」

「デートですよ?」

「いっしょに買い物に行くだけだよね?」

「ぞれをデートって言うんですよ」

ふふ、と冬月が耳元で笑う。すごく妖艶な声だと思った。

「では、相生橋のたもとに九時で、よろしくお願いします」

おやすみ、おやすみなさい、と言い合って、僕たちは通話を切った。

耳が熱い。耳元には、冬月の吐息が残っているような気がした。

《デート前日 了》