#1 - 2022-11-4 07:57
理瀬
作者:         曖昧な暗さ
2022年8月24日に日本でレビュー済み

以前からタイトルだけは知っていたこの作品。1巻を無料で読める機会があり、2巻はオーディブルで聞いて、そこからハマった。
 このラノを2連覇している作品だということも知り、期待は高まった。
 読み進めていくと、好みはあるけれども、どの巻もクオリティが高く、読みごたえがあった。
 自分がこの作品に対する期待を萎ませてしまったのは6巻だった。
 そして、この7巻に至っても、その時に生じた問題は解決していない。
 この物語が停滞しているのは、ヒロイン陣のせいではないと自分は思う。

 まず、この作品はリア充を主人公にすることによって、ラブコメに必要な手順を省略し、いきなり本題を描くことを可能にしたことを特徴とする。
 一昔前の学園モノは、例えば主人公がオタク気質な少年なのになぜかモテたり、あるいはヒロインがお姫様だったり天使だったりと、ファンタジー成分が強いものが多かった。自分はそれはそれで『現実では描けないものを描く』という創作として好きだが、最近の傾向はラノベなどのエンタメ作品であっても、現実に寄せることが多くなってきた。
 他作品でいえば、弱キャラ友崎くんはスクールカーストを上げていくことを目指すという目的が存在する作品だし、ひげを剃る。そして女子高生を拾う。という作品は、神待ち少女という一種の社会問題的な存在をヒロインにした。
 なろう系でも主人公は高校生の青年ではなく、社畜の中年ではなくてはならない。それは読者にとってその方がリアリティレベルが高いからだ。
 また、現実の厳しさ、息苦しさを反映したかのように、ジャンプ作品でも鬼滅の刃や呪術廻戦、チェンソーマンなど、かなり残酷な表現やグロ描写を含む作品が人気を博するようになった。
 これらはいずれも時代の流れの反映だと自分は考える。

 話を千歳くんはラムネ瓶のなかに戻すと、この作品が斬新だと評されたところは、内気な少年を主人公にした場合、ヒロインとの出会いから長々と積み重ねなければいけない関係性を、リア充を主人公にしたことにより省略し、既にヒロインとなる少女たちとは良好な関係が築けているというところをスタートラインとしたところだ。
 これにより作者が言うところの、ギャルゲーで言うところの共通ルートをすっ飛ばし、個別ルートをすぐに描くことが可能になった。
 主人公はリア充であり、コミュニケーション能力が高く、問題解決能力もあり、女子と仲良くなるのは自然である。これもリアリティレベルが高いと言える。
 しかし、この作品にも一つファンタジーがあって、本当にリア充のイケメンだったら常に彼女は絶やさないはずである。けれどもこの作品の千歳くんには特定の彼女はいない。
 それぞれのヒロインの問題を解決し、一つ一つが特別な立ち位置の関係性になっていく。
 この作品の物語の強さも作用し、関係性はどれもかけがえのないものに思える。
 五巻は『リア充主人公と各ヒロインが強い結びつきを作る』ということと『リア充主人公が彼女を作らない』ということの矛盾が炸裂した巻であったとも言える。
 オタク主人公であれば、ヒロインとゆっくり関係性を育んでいき、最後にはご都合主義でメインヒロインが選ばれても、それはそれでそういうものというベタとして受け入れられるかもしれない。
 しかし、千歳くんはラムネ瓶のなかは違う。初めから良好な関係値はあり、四巻までで各ヒロインと主人公の問題の解決ーー物語と呼ぶべきものはすべて終わらせてしまった。
 ここまで来たらもうやれることはどのヒロインを選ぶという話でしかないはずだ。
 そのきっかけは夕湖という少女がこれ以上ないという形で作ったはずだった。
 しかし、六巻でその問題は解決されなかった。
 紆余曲折はあったものの、結果として結論の先延ばしをしたに過ぎないように思えてしまった。ここで自分はかなり落胆した。
 中盤に主人公が誰か一人のヒロインを選ぶ、いやそこまではしなくても、現時点でどのヒロインが自分の心にどのように在るのか、主人公がそれと向き合うのであれば、それはきっと面白いものになると感じていたからだ。

 千歳くんはラムネ瓶のなかは、構造としてギャルゲーの個別ルートを4ルート(4巻)やった後に、その後に延々と共通ルートをやるような本末転倒な感じになっている。
 なんでそうなってしまったのかと言えば、個別ルートが全部終わったにも関わらず、主人公が選択しなかったからだ。
 物語が停滞しているのは、ヒロインたちが自分が選ばれないのではないかと思い悩むのは、主人公が自分の中の気持ちに向き合おうと一向にしないからだ。
 千歳朔が優柔不断で決断を下せず、自分に向き合って考えて今の事態を進ませようとする努力を怠っているからだ。どのヒロインが特別なのか、そのきっかけを待っているだけになってしまっているからだ。しかし、それを選ばせるだけのヒロイン固有の問題解決に関してはこれまでの巻で全部やってしまったからだ。
 例えば、間違っても決断が早く、彼女を途切れさせず、傷つくこと傷つけることを恐れずに選択をすることができる人間をリア充イケメンとするのならば、今の千歳朔はただの優柔不断で誰も選べず誰も救えない、これまでのどこかのラブコメ作品に登場してきた内気な主人公となんら変わらない存在でしかなくなってしまった。
 これが作品最大の問題点であり、物語が停滞している原因だ。

 五人からの好意を受け、選択権を持つ主人公が、傷つけることを恐れて選択をしないなら、当然物語は進まず、ヒロインが主人公というトロフィーを求めて行動することを描写するしかない。そこには魅力的な主人公の問題解決は見られない。

 千歳朔は六巻で死んだ。
 そして未だ死んだままだ。

 七巻は単巻で見れば、これからが楽しみになる展開もあり、面白く読めたが、千歳朔が優柔不断である限り、主人公が動く作品ではなく、ヒロインを動かす作品になってしまうと感じる。
 この根本的な問題をこの作品がいつ解決するのか。
 それを楽しみに見守っていようと思う。