Broken-Chord

「－君のいないこの世界で、僕は二人の音楽を奏で続ける－」
20世紀アメリカ都市部。彼はいつも静かにヴァイオリンを弾いていた。
酷く汚れた楽器を、彼は決して磨こうとしなかった。
そして誰にも磨かせなかった。口を尖らせながらその楽器を磨いてくれた人を、彼は忘れられなかったから。
恋人が乱暴に部屋のドアを閉めて出ていったその日のうちに、彼は部屋を引き払った。街の駅で列車に乗り込み、席に座って足を投げ出した彼。その傍らには小さな鞄と、古びたヴァイオリンケースが無造作に置かれている。線路のリズムが彼を眠りに誘い、彼はまた夢を見る。
だが、この日の夢は、いつもとは少しばかり違っていた。